基調講演「フェーズドアレイ気象レーダの開発」

3次元の降水の分布を瞬時に、しかも連続的に取得できるフェーズドアレイレーダは気象レーダの理想形ともいえるレーダです。概念としては早くから考えられていましたが、その実現には多くの年月が必要でした。その足跡をたどると、雨の検出から始まり、ドップラーによる動きの観測、偏波観測による降雨強度推定精度の向上、短期現象把握のための高速化などといった流れが見て取れます。初期の気象レーダからフェーズドアレイ気象レーダまでのレーダ開発の歴史をその必要性と共に振り返ってみます。

ゲリラ豪雨の早期探知と危険性予測

2008年7月28日に神戸市都賀川で発生した鉄砲水による水難事故以来、「ゲリラ豪雨」が社会現象化しました。突然の豪雨、それに伴う都市域の小河川の水位の急上昇がゲリラ豪雨災害の特徴であり、5分でも10分でも早い注意喚起が必要不可欠となってきます。一方、国土交通省は、2010年から全国の政令指定都市を中心に既存のレーダ雨量計よりも時間・空間ともに高解像度でかつ精度良く降雨強度を推定できるXバンドMPレーダ(XRAIN)を配備し、ゲリラ豪雨災害への観測体制を強化しました。講演では、積乱雲が発達する際には、地上強雨がもたらされるより前に「ゲリラ豪雨のタマゴ」が上空でレーダ観測されること、渦としての回転がほぼ確実にタマゴの段階から確認されることをベースに開発した、タマゴの早期探知手法と危険性予測手法を紹介します。さらに、国土交通省が大阪・神戸・京都を含む近畿地域を対象に試験運用している、豪雨警戒ランクを3段階で判定・予測してウェブ表示するシステムを紹介します。

フェーズドアレイ気象レーダを活用したアプリによる、実証実験の結果について

世界最先端のフェーズドアレイ気象レーダーを活用して、ゲリラ豪雨の被害を軽減することを目的に、アプリ開発の実証実験を行いました。アプリ名は「3D雨雲ウォッチ~フェーズドアレイレーダ~」とし、日本で初めて30秒ごとに3Dで雨粒を表現することに成功。機能としては主に2つあり、豪雨の可能性をお伝えするPUSH通知や、3D雨雲レーダーを導入しました。これまでの雨雲レーダは、2Dでの表現が主流でしたが、3D雨雲レーダで今まで以上に「豪雨の危険が自分の身に迫っている」という実感につなげて頂き、身を守る行動に活かして頂くことに挑戦いたしました。また、実際にアプリを使っていただいた関西地域の方を対象にユーザー意見収集を実施。その結果と今後の課題や展望についてお話させていただきます。

「ビッグデータ同化」でゲリラ豪雨に挑む

最新のフェーズドアレイ気象レーダーにより、30秒毎に鉛直100層という超高頻度・高解像度で雨雲の動きを観測できるようになりました。一方、スーパーコンピュータ「京」により、シミュレーションも高精細化が進んでいます。データ同化は、シミュレーションと実測データを結びつけます。シミュレーションは大規模化し、センサー技術は進化し続けます。これらの「ビッグシミュレーション」と「ビッグデータ」を同時に扱う「ビッグデータ同化」の技術革新により、突発的なゲリラ豪雨を100mメッシュで忠実にシミュレーションし、30分前にピンポイントに予測することを目指しています。この研究の最新の成果を紹介します。

フェーズドアレイ気象レーダの研究開発と今後の展望

フェーズドアレイ気象レーダは、1分以内に100仰角にわたる観測可能な時空間分解能に優れた気象レーダです。2012年に大阪大学吹田キャンパスに設置され、局地的豪雨や竜巻などの観測に有用であると期待されています。設置後、ネットワーク化がなされ、大阪府・大阪市との実証実験が進行中です。さらに、内閣府イノベーション創造プログラム(SIP)によって、偏波機能を有するフェーズドアレイ気象レーダを開発中です。本講演では、こうしたプロジェクトの現状と今後について展望します。

開催日時

2015年12月24日(木)12:30 ~ 16:00

開催場所

キャンパスプラザ京都 4階第4講義室

〒600-8216 京都市下京区西洞院通塩小路下る東塩小路町939

交通案内http://www.consortium.or.jp/about-cp-kyoto/access

京都市営地下鉄烏丸線、近鉄京都線、JR各線「京都」駅より徒歩5分(ビックカメラ向かい)

開催趣旨

豪雨や竜巻による災害が多発する状況下、最新の気象レーダの開発や気象予測技術の研究開発が活発に実施されています。
そこで、本セミナーでは、最新気象レーダ観測による防災・減災についてや、気象レーダによる社会イノベーションを目指した研究開発に関するご講演をいただき、関係者間の相互連携を進め、また、専門家でない方にも研究開発の現状と課題をわかりやすく解説します。

講演会プログラム

12:30 ~ 12:35主催者挨拶福地 一次世代安心・安全ICTフォーラム 会長、首都大学東京
12:35 ~ 12:40来賓挨拶荻原 直彦総務省 情報通信国際戦略局 技術政策課 研究推進室 室長
12:40 ~ 13:40基調講演「フェーズドアレイ気象レーダの開発」井口 俊夫情報通信研究機構
13:40 ~ 14:10ゲリラ豪雨の早期探知と危険性予測中北 英一京都大学防災研究所
14:10 ~ 14:20休憩  
14:20 ~ 14:50フェーズドアレイ気象レーダを活用したアプリによる、実証実験の結果について小池 佳奈株式会社エムティーアイ
14:50 ~ 15:20「ビッグデータ同化」でゲリラ豪雨に挑む三好 建正理化学研究所 計算科学研究機構
15:20 ~ 15:50フェーズドアレイ気象レーダの研究開発と今後の展望牛尾 知雄大阪大学
15:50 ~ 16:00閉会挨拶中北 英一けいはんな情報通信オープンラボ研究推進協議会
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